行かずに死ねるか!
行かずに死ねるか! 世界9万5000km自転車ひとり旅
石田ゆうすけ 著
幻冬舎文庫 600円+税
☆☆☆☆
著者、石田ゆうすけさんの、7年半に渡る自転車世界一周の旅を記した紀行エッセイ。
このエッセイの前半に
「そう、あれこれ考えていてもしかたがないのだ。とにかく動くことだ。動きだせば、自然に力がわいてくる。」
という文が出てくる。
びっくりした。
この前読んだ、「ガンジス河でバタフライ」でたかのてるこさんが言ってたことと、すっごく似てない!?
やっぱりこの石田さんの考えにも共感。私も動かなければ。
また、著者は旅の中で、景色に圧倒され、何日も魅入ってしまうという経験をする。
そんなこと今までの私の人生にあっただろうか。「何日も」は時間の都合上無理だとしても、何分も何時間も何かに魅入るなんてこと、あっただろうか。
…なんて素敵な経験なんだろう。想像しただけでゾクゾクする。
旅を続ける中で出会い、交流を深める友人たちとのエピソードも、あたたかい。
私は、友人としょーもないことを真剣にするという楽しさを、社会人になってからはすっかり忘れていた気がする。
小学生のころ庭に地下基地を作ろうと、幼馴染みと何日も日が暮れるまでシャベルで穴を掘り続けたあの日
中学生のころ、友人たちと家から材料を持ち寄って教室のストーブで餅を焼き、先生にキツく叱られたあの日
高校生の頃はあんまりしょーもないことしなかったなぁ。大学生のときのことはありすぎて書ききれぬ…
(以上、私のしょーもない回想でした)
全て過去のことだと思っていた。今だって、やろうと思えば友人と楽しいことはいくらでもできるのだ。
著者は、旅の中で友人たちと実に楽しそうに自転車をこぎ、飲み、語り、歌い、踊る。そこには私が忘れてしまった時間がある気がする。
旅を続けるうちに変容し、深まっていく著者の人生観にも惹きつけられる。そして同時に、圧倒される。
忙しく毎日働いていると、何のために生きているのか分からなくなることが、誰にだってあると思う。そもそも、生きているということや人生について考えることすらなくなってしまうこともある。
そんな中で、著者の人生観は、日常を彷徨っている私たちの灯台になると思う。
(もっとも、著者は、旅を長く続けていると、旅をすることが日常になってしまい、何をやっているのか分からなくなることがあるというのだから、それも興味深い。なんという逆転現象。)
著者の旅を通して自分の人生を見つめ直すことができる本だと思う。現代社会ですり減っている人。すり減っているつもりはなくてもなんとなく毎日が過ぎて行く人に是非読んでほしい。